作品ノート (初演時のメッセージ)

『魂の遺伝子』~ヴァイオリンとピアノのための
Gene of the soul for Violin and Piano


【作品について】 

 人間は世代交代が遅く、生物としての遺伝子の進化はゆっくりですが、自分の人生を経て蓄積した記憶を、言葉、楽譜、音、画像などを通して、次の世代の人々に伝えることが出来ます。それは、謂わば魂の遺伝子のようなものです。この作品は、自分の魂に刻まれた命への慈しみを、音を通して若い人達に伝えたいと願い作曲しました。この作品を、初演者の長尾春花さんに捧げます。





ミステリーゾーン” ~舞踊と電子音響のための~      
“Mystery Zone” for Dance and Electronic sound


【作品について】

 この作品の原曲は、2002年にエレクトーンとコンピュータサウンドのために作曲したもので、原曲の初演時は綿島由紀さんが、エレクトーンを担当しました。作品には以下のような隠されたストーリーがあります。清らかな少女(巫女)が、魔界からの使者に誘導され、魔界のドアを開けてしまい、そこに棲む魑魅魍魎(ちみもうりょう)達と、激しいバトルを繰り広げます。しかし、少女の命がけの一撃で、魑魅魍魎達は呻き声を上げて退散し、世界は浄化されます。原曲の初演時はエレクトーン奏者にも少し演技させましたが、今回はそのストーリーの世界を群舞で表現します。魑魅魍魎が住む世界とは、人間の心に内在する闇の世界でもあります。ダンサーたちが、優れた技術と表現力によって、ストーリーを表面的になぞるだけにとどまらず、人の心の中にある光と闇のせめぎ合いを表情豊かに描き出してくれることを期待します。(中島)  2013年2月



『心の森』~ピアノソロのための
Woods of the heart  for Piano solo


【作品について】 

 この作品は、昨年ヴァイオリンとピアノのために作曲した『魂の遺伝子』に続く、音楽による遺書シリーズの第2作目として作曲しました。私自身は、ピアノという楽器を通して自身の内的心象風景を音で表現することを試みたつもりですが、聴く人はそのような予備知識に囚われず、一つの純音楽作品として自由に聴いていただいてよろしいのではないかと考えます。
曲は闘いと怒りを表現した跳躍音程を伴う激しい打鍵による主題と、ゆったりした3拍子を背景に魂の安らぎを求めるような2つ目の主題が交互に出現し、やがてその2つの主題が、あたかも心の葛藤を表すかのように絡み合い、クライマックスを迎えます。
前作と同様、今作の初演者についても、私より半世紀近く後に生まれた、若ピアニストに作品の表現を託すことにいたしました。
この作品を単調にならず、表出力豊かな演奏を行うには、二つの主題のリズムと響きの対比、繊細な音色感、自在で柔軟なテンポ感などが要求されます。若い演奏家にとって、決してハードルは低くはありませんが、山本有紗さんが、優れたテクニックと若々しい鋭敏な感性をもって大胆に作品に挑み、作説得力のある演奏をされることを大いに期待しております。(中島洋一) 2016年10月



谷川俊太郎詩集『どきん』より

  ① みち 4 /② 海の駅 / ③ おかあさん/ ④ あいうえおうた


作品について

 私が谷川俊太郎の詩に作曲した歌曲としては、詩集『わらべうた』から、7つの詩を選んで作曲した『7つのわらべうた』があり、日本音楽舞踊会議のコンサートでも何度か演奏されておりますが、今回は、1983年に発表された詩集『どきん』から、4つの詩を選んで作曲しました。
 谷川俊太郎の詩の世界は、まるで様々な言葉の星々漂う宇宙のように、多様性に満ちておりますが、今回選んだ詩は、少年期から青年期にかけて、誰しもおそわれる、憧れ、焦燥、不安、喪失感といった心の世界への回帰を感じさせる、[みち 4]、[海の駅]、[おかあさん]と、リズミックでユーモアに満ちた言葉遊びであり、早口で朗読することが困難な[あいうえおうた]の4つの詩を選んで作曲しました。最初の3曲が比較的遅めのテンプで書かれているのに比べ、最後の[あいうえおうた]は、テンポが速く、高度な歌唱技術を要します。今回の作品は、このコンサートのために書き上げたものですが、若く将来性豊かな、湯川玲子さんと、神田麻衣さんの演奏で、どのような世界が展開されるか、楽しみにしています。

 みち 4

まよわずに
ひとすじに
とりたちはとおいくにへと
とんでゆきます

そらにも
めにみえぬみちがあるのでしょうか
そのみちをてらすのは
かすかなほしのひかりだけなのに

いそがずに
おそれずに
ちずもなくとりたちは
かなたへととおざかる
 海の駅

ぼくはもう飽きたのに
ぼくはもう要(い)らなくなったのに
ぼくはもう遊ばないのに

玩具(おもちゃ)の機関車がぼくを追いかけてくる

もう子供じゃないんだ
もう違う夢を見るんだ
もうひとりきりになりたいんだ

それなのにまだ間ぬけな汽笛を鳴らして
水平線にまで線路は続いているかのように

捨てちまうよ
海の中に投げこむよ!

----どうしてもそれはできない
 おかあさん

ぼくみえる
ひとしずくのみずのきらめき
ぼくきこえる
ひとしずくのみずのしたたり
ぼくさわれる
ひとしずくのみずのつめたさ

おかあさん
ぼくよべる
おかあさーんって

おかあさん
どこへいってしまったの?
ぼくをのこして
 あいうえおうた

あいうえおきろ
おえういあさだ
おおきなあくび
あいうえお

かきくけこがに
こけくきかめに
けっとばされた
かきくけこ

さしすせそっと
そせすしさるが
せんべいぬすむ
さしすせそ

たちつてとかげ
とてつちたんぼ
ちょろりとにげた
たちつてと

なにぬねのうし
のねぬになけば
ねばねばよだれ
なにぬねの

はひふへほたる
ほへふひはるか
ひかるよやみに
はひふへほ

まみむめもりの
もめむみまむし
まいてるどくろ
まみむめも

やいゆえよるの
よえゆいやまめ
ゆめみてねむる
やいゆえよ

らりるれろばが
ろれるりらっぱ
りきんでふけば
らりるれろ

わいうえおこぜ
おえういわらう
いたいぞとげが
わいうえお







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